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帰る

 程よい暖かさの後に、程よく雨が降り、そんな日々が穏やかに繰り返されているものですから、あっという間に新緑が萌え始めました。まぶしいような若い緑の奥に見える日高山脈は、残雪が鋭い峰々を浮き上がらせています。そんな様子を見る度に、「今頃きっと、アポイ岳は花真っ盛りだろうな」と思わずにはいられません。そう言えば、今年はカタクリの群生も見に行っていないし、ミズバショウも、ニリンソウも、エゾエンゴサクもオオバナノエンレイソウも姿を見ていません。十勝の短い春は、遠い国での出来事のように、このまま過ぎ去ってしまうのでしょうか。
 今年のお正月、帰省した時にいつもの裏山を散歩したことを思い出しました。子供の頃からの遊び場で、当時でも農作業に来るおじさんやおばさんぐらいしか通ることのない山道でしたが、今ではその田畑も使われなくなっているようです。久しぶりに歩くと、分け入ることをためらってしまうほど、草木が生い茂っていました。元の姿へ戻ろうとするのが自然の力なのでしょう。人間が踏み込まなくなった山に満ちた生命力に、少し驚いたのです。
 きっと日高の山々も、大雪の山たちも、雪解け水をごうごうと流し、春一番の花を咲かせ、虫たちがうごめき出し、鳥たちがさえずり合戦をしていることでしょう。それは、いつもの年と同じようでいて、少し違うのかもしれません。人が訪れなくなった山は、本来の力を取り戻し、以前の美しい姿へと帰っていくでしょうか。自然環境にとってはその方がいいのかもしれない、頭の片隅ではそう認める自分もいて、なんだか切なさが増します。

2020年05月11日

カテゴリ
今週のヒューエンス
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