前世は・・・
つい一週間ほど前まで寝苦しい毎日が続いていましたから、今年の紅葉前線のスタートは少し遅いようです。と言っても、それは背の高い中高木でのことで、足元を這うように伸びる小低木の紅葉は、順調に進んでいます。
鮮やかな秋色のじゅうたんの中に、ブルーベリーのように濃い紫の実や、小さなサクランボのような赤い実が、控えめに、でも誇らしげに、あちらにもこちらにもついていました。糖度の高そうなガンコウランの実を見つけては、あるいは酸味の強そうなコケモモの実を見つけては「食べてみたい」と心の中で叫んでしまいます。どれもおいしい実だと教えてもらったことがあるのですが、まだ一度も口にしたことはありません。ここは国立公園内ですし「持ち帰っていいのは思い出だけ」と書かれた看板を通った後では、たとえ一粒でも試す訳にはいかないのです。でも、だめと言われれば言われるほど、食べてみたい気持ちは募り、秋がやってくる度に、繰り返し同じことが頭の中をめぐっては、出口を見つけられずにいます。
思えば、幼少の頃から、大きなサクランボやクルミの木のある家を、うらやましく眺めていました。実のなる木への憧れが強かったと言うのが正しいか、食い意地がはっていたと言うのが正しいか、おそらく後者であろうことは自覚しているところですから、前世はリスかウサギ、はたまたクマだったのかもしれません。今は人間なのですから、自分で育てるということもできるのですが、なぜか、野山で育ったものの方が美味しそうな気がしてなりません。紅葉の美しさよりも、木の実に心がざわついてしまう秋がやってきました。
2020年09月14日
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