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天然のアンプ

 ぽわん、ぽわん、ぽわん・・・
 SF映画で宇宙船がワープする時に発していそうな、不思議な音です。楽器はシンセサイザー、でしょうか。
 ひゅんっ!
 ひゅんっ!
 深い森に囲まれた湖の真ん中で、電子音(のような音)が響いてきた時は、空耳かと思いました。一緒にいる人に「今の聞こえた?」と聞いても、「??」という顔をされてしまったからです。お互いにじっと耳を澄まして「ほら、今の!!」と、空耳ではないことを確かめ合った後も、わりと頻繁に響いてくる音の正体は分からず、なんだか本当に異次元空間に迷い込んだかのような気分です。
 しばらく不思議空間にひたってみて分かったことは、どうやら湖に張った氷が、アンプ(増幅器)の役割をして、音を遠くまで伝えているらしいということです。
 対岸で誰かが氷上をザッ、ザッと歩けば、ぽわん、ぽわん、ぽわん。
 氷にピシッとひびが入ると、ひゅんっ!
 風が氷をザザッと叩けば、ぼわぁ〜ん。
 この天然のアンプはどんな小さな鋭い音も、かなり気の抜けた大きな音へと変えてしまう機能を備えています。何度聞いても不思議で、聞けば聞くほど可笑しくてしかたがありません。師走の一時にだけ表れる、へんてこなアンプ。商品としての市場価値は測りかねるところですが、私の肩の力を抜いてくれるには、十分すぎるほどの効果をもっていました。

2020年12月07日

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