沁みる
朝起きると、東の空はまだ暗く、夜と変わらない世界が広がっています。ぼーとした頭のまま、あれやこれやとしているうちに、白み始めます。日高山脈の尾根筋がくっきりと浮かび上がってくると、にわかに気持ちがそわそわしてきます。カメラだけ抱えて外に出ると、程よく冷えた冬の空気が気持ちよく身体に沁みわたります。
辺りには犬も人も影はなく、林の向こうから、ハクチョウたちの声がかすかに届くばかりです。青白かった日高の山がピンクに染まり始めるたら、もうすぐ太陽が顔を出す合図です。そして、晴れた十勝では、一番気温の下がる時間でもあります。最初心地よく感じられた空気は、じわりじわりと耳や指先を凍えさせていますが、変わっていく空の色に心を奪われて、立ち去る決心がなかなかつきません。
河畔林の繊細な影の奥から太陽が見え始めると、均衡は一変します。先ほどまでの柔らかな色は、力強い光の中にあっという間に飲み込まれてしまいました。夜が終わり、一日が始まった、そう感じる瞬間です。
太陽が出て、沈んで、空が青かったり、白かったり、オレンジだったり、ピンクだったり、世間の喧騒など意に介さず変わり続けています。人間と言う存在の、うつろな輪郭を、目を凝らして探し続けた一年が、終わろうとしているからなのでしょうか。こうしていられることのありがたさも相まって、どれも優しく心に沁みる色です。
2020年12月21日
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