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仁王立ち

 小さな川が流れる牧草地に、丁寧に羽を繕っているタンチョウを一羽見つけました。距離は50メートルぐらいしか離れていなかったでしょうか。いつものように「近づいたら逃げられるかな」と思いつつも、車から降りてカメラを向けます。すると、大きな羽を広げて仁王立ちし、大きな鳴き声を上げ始めました。顔は横を向いていますが、彼らの目は、正面よりも真横がよく見えるようについていますから、視界は私を正面に据えているはずです。この行動は私に向けられていたのです。
 初めての経験で少し面食らいましたが、すぐにこの意味を理解しました。ここを通りかかる少し前に、偶然、抱卵をしているタンチョウを見つけていたのです。沼の岸から少し離れたところに作られた巣に、一羽がじっとうずくまっていました。タンチョウが卵を温めているのを見たのも初めてでしたから、こんなところで、こんな時期から子育てをしているのかと驚いたばかりでした。おそらく、カメラの前で仁王立ちしたタンチョウは、ペアの相手と抱卵を交代したばかりだったのでしょう。空腹を満たし、羽をつくろっている間も、縄張りのパトロール役を担っていて、「それ以上は近づくな!」という警告を私に発していたのです。
 春はやはり特別な季節です。いつもは逃げれば済むものにも、立ち向かわなければならないからです。穏やかな陽の光とは裏腹に、張り詰めた声が空に響きます。無用な気疲れはさせるまいと思いつつも、守るべきものを背負った者の強さに、しばらく魅入ってしまいました。

2021年04月12日

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