君に会いに
君に会うために、3時間の山道を歩いて来ました。7月も半ばですから、もう最後のチャンスだと思っていたのです。きゅっと締まった緑の葉が敷き詰められた中に、黄色い雌しべを真ん中に抱えた白い花が、ぽつりぽつりと咲いていました。まだ可憐な姿をとどめて出迎えてくれました。
この花の咲く場所は、雨が降っても、風が吹いても隠れる場所など見当たらない、荒涼とした大地です。でも、かがんで目を凝らしてみると、北海道でしか見られない花ばかりに囲まれています。この花は固有種ではありませんが、それでも偏食の気が強いのかもしれません。見られる場所も限られていて、登山道の雪渓が小さくなる頃にはもう花を終えてしまいます。加えて、他の固有種の花などよりもずっと群落の数も少ないように見えます。
つくづくと間に合ってよかったと思うのです。シーズン初めの私の足では、どうがんばっても、またどのルートを選んでもここまで3時間以上はかかってしまいます。ですので、体力に自信のない時や、雨の多い年にはここまで来ることはできず、気が付いてみれば、最後にこの花を見たのはもう何年も前になってしまっていました。
「チョウノスケソウを見に行きたくて。」「チョウノスケソウ?あの沢山咲いている白い花ですか?」「いえ、あれはチングルマですね」途中、同じ方向へ歩く方と交わした会話はこんな感じでした。どうしてこの花が好きなのかと問われると、当たり前のことばかり並べてしまい、みんなが感心するような答えは出てこないよう気がします。何となく・・・でも会えると嬉しくてたまらない存在です。