みんなで渡れば
旋回噴流撹拌技術の生みの親でもある井口先生がおっしゃっていた言葉は、今でも、ことあるごとに思い出します。
「物理の世界には、“みんなで渡れば怖くない”という現象はありません。一方向に流れが起きれば、それを打ち消す方向にも流れが起きます。海の波は、一見、砂浜に向かって一斉に寄せてきているように見えますが、必ず海へ戻っていく流れも同時に起きているんです。」
旋回噴流撹拌の仕組みを分かりやすく例えてくれた場面でしたが、これまで流体力学の「り」の字も学ぶ機会がなかった私にとっては、目からうろこの出来事でした。
先生は「物理の世界には」とおっしゃっていましたが、それは物理の世界に限ったことではないといつも感じます。生き物の世界でも、一人勝ちできる種はきっといません。それは、現存する生き物たちが証明しています。地球が誕生して間もないころに生まれた細菌から、ごく最近生まれた人類まで、既知の種だけでも100万を超える生き物が、同じ時代を生きているのですから疑いようもないことです。
私たちが自分たちの理ばかりを一方向に追求すれば、私たちにとって不都合なことも同じくらい起こるのでしょうか。北海道に引っ越してきてから初めてと言ってもいいぐらい、先週は寝苦しい夜が続きました。この後もしばらくは続きそうです。夢とうつつの浅瀬を漂いながら、これはその結果なんだろうかと、先生の言葉を思い出したのでした。