桜の色
通勤路にある桜は、幹が一部朽ちていて、大木ではないものの年季を感じる樹です。春の花びらの頃はあっと言う間に過ぎてしまいますが、秋の色づきはもう少しゆっくりと楽しむことができます。今の季節、もしかしたら花の頃よりも頻繁にこの木を見上げ、葉の変化を眺めているかもしれません。
桜の葉は、最初は黄で、冷え込みが厳しくなると赤みがさして美しいグラデーションになります。その何とも言えぬ、でも心惹かれる色を何と表現したらよいのか、「アプリコット」かな~などと考えつつ、ふと思いました。桜の木の表現に別の植物を使うのか、と。
色の表現には共通の認識もあり、「桜色」と言えば淡いピンクを、「藤色」と言えば紫を誰もが思い浮かべることでしょう。アプリコット色は、杏の実のように黄色に赤みのさした肌色のような色です。桜の葉の色づきは、おそらく多くの人が想像するアプリコット色よりも濃い黄と赤の、でもオレンジとも少し違う中間色です。それはカエデやモミジの紅葉とも違うので、つまりこの葉も、桜を特徴づける色の一つなのです。でも、誰も「桜の色」と言われてこの色を想像する人はいないでしょう。
私たちにも「その人の色」というものがあったりします。特徴を表現するときに使います。でも桜の葉を見ていても思うのは、色は思いのほか幅が広く、また、そのものを表現する色も一つではないということです。「色」として象徴していながらも、そこから外れたり、曖昧だったり、思っていたのとは違う側面が、実は面白く、不思議で、そして魅力的でもあったりします。いわゆる桜色も好きだけれど、桜の葉の色も、桜の実の色もそれぞれに「桜の色」です。頭の中の観念としての色と、心に留まった色とのギャップを注意深く見ていくと、世の中はもっともっと豊かな色彩に溢れているのだと知ることができるような気がします。