人も歩けば
広い雪原にはエゾシカやウサギたちの足跡が点々と続いていて、「あそこでキツネが狩りをしたのかな」、「あそこは仲間同士で挨拶を交わしたのかな」いつものようにそんなことを想像しながらドライブを楽しんでいました。遠くの山に雲がかかり始め、青空も霞み始めた頃、雪原の端の辺りに一頭のキタキツネを見つけました。キツネなどは珍しくはありませんが、急いで車を止めたのは、まさに狩りの真っ最中だったからです。
テレビなどでは何度か見たことのある姿でも、実際に遭遇したことはありませんでした。雪の下の匂いを嗅いで、ジャンプして顔を雪に突っ込む動作を何度か繰り返していました。望遠レンズを通してもはっきりとは見えない距離でしたが、とにかくシャッターを押し続けていると、何かをくわえているのがわかりました。狩り成功のようです。
撮った写真を拡大してみると、それはネズミでした。そして、私が認識するよりもずっと早く狩りは成功していて、キツネは捕まえたネズミを宙に投げたり、一度離してはまた捕まえたりを繰り返していました。目も耳も鼻も真っ直ぐ獲物に向けて、すべての神経を集中させているようです。よく子どもたちは遊びながら狩りの練習をすると言いますが、実際に見たその姿は、遊びというよりも必死に学んでいるように見えました。こうしたらネズミはどこへ逃げるのか、逃げた後にどんな動きをすればよいのか、雪の下からはそんな音や匂いがするのか、厳しい冬を生き抜くために、狩りの成功率を上げるために、あらゆる情報を得る機会ととらえているように見え、少し圧倒されてしまいました。
この日は本当によくキツネに遭遇する日でした。極めつけは『十字狐』と呼ばれる黒いキツネです。遺伝的にはキタキツネと同種のようですが、体毛が黒い個体をそう呼ぶのだと知りました。夕刻、山坂の多い初めての道を帰る途中で見つけました。車の姿を見るや否や、崖の下へ逃げてしまい、車の中から何とか撮った写真もピントがまるで合っていませんが、太く長いしっぽが写っていたお陰で、犬ではないことがはっきりわかります。警戒心が強くなかなか会えないそうですから、もっとちゃんと姿を見たかったと、残念な気持ちでいっぱいです。
どこでも会えると思っているキツネでも、知らない一面がまだまだありました。歩けばキツネにあたる、でもつくづくと学ぶことの多い一日になりました。